お題:読書感想文

お題「読書感想文」

 

先日、とても久しぶりに何も予定のない日があった。

私は平日は学校で授業があり、土日にもバイトが入っているため、基本的には予定のない日というのがない。

ふと手帳を見てみると、なぜかバイトを入れず空けてある土曜日を見つけたのだ。

それに気づいたのは前の日の夜だった。きっとなにも考えずに1日だらだら寝て過ごしたら、夕方ごろに、ああ1日無駄にしてしまったと、かえって心が疲れそうだと思ったので、なにか本を読むことにした。

私は閉店間際に近所の本屋へ入り蛍の光を聴きながら、ものの5分、直感で明日読む本を買った。

『東京すみっこごはん』成田名璃子著

この本を何もない土曜日のお供に決めた。

 

物語の概要は以下の通りだ。

 

商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋は、年齢も職業も異なる人々が集い、手作りの料理を共に食べる“共同台所”だった。イジメに悩む女子高生、婚活に励むOL、人生を見失ったタイ人、妻への秘密を抱えたアラ還。ワケありの人々が巻き起こすドラマを通して明らかになる“すみっこごはん”の秘密とは!?美味しい家庭料理と人々の温かな交流が心をときほぐす連作小説!(裏表紙記載)

 

5分ほどで選んだのでしっかりとあらすじを読まなかった。ほぼジャケ買いである。

そのときは頻繁に自分で料理をしていた時期だったので完全にタイトルの「ごはん」の文字に惹かれて選んだ。

私は食べものの本や漫画に弱い。

 

「すみっこごはん」と書かれたボロ屋に年代も性別も職業もバラバラの人たちが集まり、当番になった人がその日集まったみんなのご飯を作る。そしてみんなで食卓を囲む。

ただし作るときは「すみっこごはん」のレシピノートに載った料理をそのレシピにしたがって作るというのがひとつの大きなルールである。

集まる人たちに代わる代わるスポットライトが当たっていく形式だ。

 

いちばんはじめの、女子高生の楓ちゃんの章は読んでいて正直とてもしんどかった。

彼女は高校の同級生たちから陰湿ないじめを受けているのだが、そのSNSや教室での描写がわりとリアルだった。

私も高校までに、この話ほどではないが学校で苦しい思いをした時期があったので、それを思い出してしまって読み進めるのが苦しかった。

最後まで読んでみてこの楓ちゃんがキーパーソンだったからだとわかるのだが、苦しい描写の多いこの章が長いのがけっこう私には堪えた。

ただ、楓ちゃんがお出汁を取る練習をしているのを見守る丸山さんの「お湯に鰹節の色が移っていくでしょう?鰹の命が、お湯に移っているんですよ」というセリフがとても好きだった。

楓ちゃんもこの後言っているが、なんとも抽象的に聞こえる言い方だ。しかし、お出汁を大事に取る丸山さんの考え方がよく伝わる表現だなと感じた。

 

その次の章である奈央さんの「婚活ハンバーグ」もかなり切実な話で、楓ちゃんの話同様苦しみながら読み進めた。

 

はじめはこの本、美味しいご飯をみんなで食べてほっこりして終わるような内容だと勝手に思っていた。だが読んでいくとそれぞれの話の主人公みんなが迷いや不安、フラストレーションを抱えていて、その直面する問題もとても現実的なのだ。

読んでいる私まで本当にどんよりとした気分になるほど、曇った心情の描写が上手な方だなと思う。

 

女子高生、アラサーOL、タイ人留学生、アラ還おやじと、それぞれの章の主人公たちは見事にバラバラだ。

1人称で書かれたこの小説はどの主人公の目線でも、その境遇の人の現実的な問題が身に刺さる。

軽く調べてみたが、作者の成田氏は小さいお子さんのいる女性のようだ。20代後半〜30代前半くらいだろうか。

そんな方がアラ還おやじの憂いや焦りを細かくリアルに書かれているのは観察眼が非常に良いのだろうと思った。

 

途中、読みながらあまりの内容の切実さに苦しくなって、こんなしんどい本は初めてだ、買わなければよかったとまで思った。

しかし、思い切って最後まで読むともやもやしていた部分が良い形で決着し、そんな風に思ったことを後悔した。

 

少し、とんとん拍子で最後がまとまりすぎな感も否めなかったが、出てくる家庭料理についても丁寧に書かれていて、人物の抱える問題も実際にあるようなリアリティで、おろそかにされていないのが良かった。

途中で飽きさせることなく、最後まで私の何もない土曜日のお供となってくれる本だった。