アルバイトをナメてはいけない

私は少し前まで、アルバイトというものを軽んじていた。
それは自分が客で、他人がアルバイトとして働いているのを見たときの目線ではない。
私がアルバイトとして働いているときに、自分の役目を非常に軽く受け止めていたという意味だ。

今のバイト先は家の近くの大型スーパーで、私は主にレジ打ちの仕事をしている。
最近では時間帯によって、レジに入る従業員たちやお客さんのサポートをして回る仕事も任されるようになっている。

入社したのは大学に入って間もないころで、ごくごく軽い気持ちではじめたバイトだった。
大学の学費や教材費、定期代など諸々かかるお金はすべて親と折半で、それに加えて自分でも使うお金が必要だったので、割りに時給の高かったそのスーパーのレジで働くことにした。

はじめはそのスーパーの中でも、なにがなんでも絶対に接客ではない部署で雇ってもらおうと思っていた。接客だけはやりたくないと思っていた。
高校生のころにレストランでウェイトレスをやっていたが、パートの古株おばさんたちにいびられるし、店長が社員の女の人を怒鳴り散らして泣かしているのを毎日のように見ていたし、そんな環境で嫌々やっていたから私も私で全く仕事ができるようにならなかったし、とにかく酷い気持ちになったまま5ヶ月ほどでやめてしまった。
それを引きずっていたから、接客をやるつもりは毛頭なかった。しかし部署ごとの時給一覧を見たとき、バックヤードの部署と比べてレジ打ちだけが飛び抜けて時給の高いのを見て、一瞬で気が変わって、結局また接客をすることになったのだ。
自分が単純すぎて書いていて呆れるが、高校でレストランのバイトを辞めてからはろくにバイトをしていなかったので、とにかくそのときはお金が必要だったのだ。

そういうわけで、私はスーパーのレジ打ちとして働くことになった。
元々レジをやりたかったわけではないし、そもそも接客が嫌だったので、はじめたころは本当に適当に仕事をしていた。
たかがアルバイトの自分が適当にやったところで、責任もないし、そんな難しくて重要な仕事をやってるわけでもないし、ミスしても最後は結局社員がなんとかしてくれるだろうという考えで、とにかく接客もホウレンソウも適当だったのだ。

しかし、数ヶ月たったある日をきっかけにそんな弛んだ私の意識はがらりと変わった。

いつものように無意味にイライラしながらレジに入っていたとき、突然私のレジを含めた数台のレジが不具合を起こした。
通常お客さん一人あたり1分でお会計が終わるところを、5分以上待たせるような遅さだった。

はじめのうちは、ちゃんとお客さんに一人一人説明をして謝ってを繰り返していたが、元々イライラしていたのもあって、私はそれを段々怠りはじめたのだ。

数人めのお客のおばさんは、その人自身も待たされたことではじめからイライラしていた。
そこへ私の酷い接客態度(目を合わせない、声が無気力、説明しない、謝らないなど)が加わって、レジを去るときに「なんなのよその態度は!!!」と捨て台詞を吐かせてしまうほど怒らせてしまった。
そのお客さんは帰り際、私の名指しでクレームを入れていったようで、数分後に社員から呼び出しをくらった。

社員についてバックヤードにさがり、心当たりはあるかと尋ねられた。
心当たりは、完全にあった。イライラしてお客さんに当たってしまった。あとから思い返すと本当に子供みたいな態度で情けない。
社員は、「レジが壊れたのは仕方ないことだけど、それでなかなかお会計が進まないことでお客さんに当たってはいけません。1日の最後に(私の勤務は遅い時間帯のため、仕事帰りの人が多い客層だった)わざわざうちの店に寄って、お家に帰って食べるのを楽しみに食品を買ってくれていたのかもしれません。その最後の最後にお客さんを送り出す場所であるレジで不快な思いをしたら、帰ってからもずっと嫌な気持ちが続いてしまうし、もうあんな店二度と行きたくないと思われてしまうかもしれません。ですので、とても混む店だし大変かもしれませんが、顔に出さぬよう頑張ってくれませんか。」と私に落ち着いた口調で話した。
私は社員の話を聞いて、涙が止まらなくなった。
自分の態度の幼稚さが恥ずかしかった。
今までは考えもしなかった、お客さんがどんな気持ちでうちの店に買い物に来ているのかということ、レジでの私たちの態度によって、お客さんの1日の終わりの気持ちが左右されるかもしれないことを思い知った。
私は今までこのレジ打ちのアルバイトをなんてナメて、軽んじていたのだろうかと思った。
さっき怒って帰って行ったお客さんが家に帰ったときのことを想像すると、本当に悪いことをしてしまったと思った。

私はアルバイトという立場で働いてはいるが、私というひとりの人間として働いていることを忘れていたのだ。
勤務時間外にただの私としてだったら、きっとあんなに酷い話し方も態度もとらないはずなのに。
仕事とはいえ、人と人とのやり取りなのだから、思いやりを持って接しなければならなかった。

そのことがあってから、私がバイトに入るときの意識はかなり変わった。
今でも、体調が悪かったり気持ちが落ち込んでいたり、バイトに気が向かない日もある。
だが、それで態度や仕事を適当にしてしまいそうになったときには、バックヤードで聞いた社員の話を思い出すようにしている。
そうすると、自然と背筋が伸びるのだ。

ただやれと言われたからやっていても駄目で、なぜ、なんのためにそれをするのかを考えていないと本当に悲惨なことになるというのを私は身をもって経験し、学んだ。
アルバイトだけではなく、日常生活での考え方や行動原理も変わった。

私が生活のなかでアルバイトに充てている時間は決して少なくない。
せっかくなら適当に過ごすのではなくて、なにをするにしても自分が成長できるように考えて動いていきたい。